もう過去のこと。DSM5の変更点はこうなるのでは?という話をしたときの資料
ご無沙汰しています。
今日見てみたら,141日も放置していました。
以前から書いておこうと思っていた,DSM5の変更点について,今回記載します。
なお,日本語訳の本が出版される前に作った資料なので,今ではもう古いし,間違いも多数あると思います。
自分の勉強のだめさ加減を記録するためにここに残します。
2013年5月 アメリカ精神医学会作成「精神疾患の診断と統計のためのマニュアル第5版 Diagnostic statistical manual of mental disorders 5th edition:DSM-5」が出版
DSM-Ⅳ(1994)→DSM-Ⅳ-TR(2000)→DSM-5(2013):13年ぶりの改定となる。
2.DSM-Ⅲとカテゴリー診断学
1980年出版 DSM-Ⅲ(DSM-Ⅰ:1952,DSM-Ⅱ:1968):カテゴリー診断学を採用
カテゴリー診断学:ある疾患において,典型的な症状をいくつかあげて,そのうちいくつ以上がそろっていれば診断ができるという診断方法
(病因は問われず症状のみで診断を行う)
3.変更点一覧
(1)多軸診断から多元的診断
DSM-Ⅲから多軸診断が採用:5つの異なった側面の評価を行って総合的に診断を実施
第Ⅰ軸 臨床疾患 臨床的関与の対象となることのある状態(ただし パーソナリティ障害および精神遅滞は除く)そのすべて。
第Ⅱ軸 パーソナリティ障害 精神遅滞
第Ⅲ軸 身体的疾患 精神疾患へ理解、または管理に関する可能性のある現存の一般身体疾患
第Ⅳ軸 心理社会的および環境的問題 第Ⅰ軸,第Ⅱ軸の診断,治療,予後に影響することのあるもの
不幸な出来事や環境的な困難,対人関係上のストレスなどの心理社会的ストレッサーの強さの程度
第Ⅴ軸 機能全体の全体評定 過去1年間の最高の適応状態を判断
→これらの多軸が完全に廃止したわけではないが,多元的診断へ
1)精神疾患の様々なレベルの変動,あるいは重複,変遷にも言及可能に
2)重症度という問題に,臨床的な尺度を用いて判定することを採用
3)カテゴリー診断は陽性か陰性か。多元的診断はスペクトラム(%表示で重症度)
まとめ:多軸診断が廃止。カテゴリー診断+ディメンション診断へ。連続性を強調。
(2)精神遅滞から知的(発達)障害へ
1)精神遅滞(Mental Retardation)から知的(発達)障害(intellectual developmental disorder)に変更
知的(発達)障害の下位
・知的(発達)障害
・全般性発達遅延 諸領域で遅れがあり,5歳以下などまだ幼いので,十分で正確な知的発達評価ができない場合
・特定不能の知的障害 諸領域で遅れがあり,5歳以上でも,十分で正確な知的発達評価ができない場合
▶従来の精神遅滞は知的障害と適応障害の両者が存在すること,知能の高低によって重度分類が行われて来た
⇨DSM-5では知的障害と適応障害の両者が存在する+重症度の評価の指標に生活適応能力の重視+単なる知能指数での分類はしない
・学力領域(Conceptual domain),社会性領域(Social domain),生活自立能力(Practical domain)にかんして,具体的な状況から重症度の判定
2)コミュニケーション障害
下位の言語障害(Language disorder):従来のコミュニケーション障害
表出型,表出受容型の区別がない(理解はよいが表出がダメ,理解も悪く表出もダメ)
→度精神発達障害の幼児期の症状の可能性
DSM-5の言語:話し言葉,書き言葉,サイン言語なども含まれる(聴覚障害も考慮可)
3)運動障害
従来の運動能力障害+チック障害
4)発達障害とAD/HD(注意欠如/多動性障害)
正式に発達障害に区分
症状発言年齢が,7歳以前から12歳以前に引き上げ
17歳以上では5項目を満たせば良いと診断基準が緩和
(3)自閉症スペクトラムについて
広汎性発達障害(Prevasive Developmental Disorder : PDD)から自閉症スペクトラム(Autism Spectrum Disorder : ASD)へ
(資料に詳しい)
(4)哺育と摂食の障害
過食症が正式に追加
幼児期または小児期早期の哺育,摂食障害と成人の摂食障害がひとつに。
数値的指標はないがBMI18.5がひとつの基準に?
(5)重度(破壊的)気分調整不全障害(Disruptive Mood Dysregulation Disorder)
6歳から17歳までのうつ病状態
1年以上続く子供の苛々や癇癪(週に3回以上の癇癪)。
周期的な癇癪は双極性障害と考えられてきたが,多く診断されすぎる
→重症気分障害(SMD)の概念が出現
まとめ:双極性障害の過剰診断を防ぐ目的に
主要な症状は5つ。
妄想,幻覚,解体した思考・会話,ひどくまとまりのない言動または緊張病性の行動,陰性症状
いずれもはっきりとしない→失調型(人格)障害
妄想だけ有する→妄想性障害
1つ以上が認められ1ヶ月以内に完全に回復→短期精神病性障害
統合失調症の診断基準は満たすが,6ヶ月以内に基準を下回る→統合失調症様障害
6ヶ月を越える→統合失調症
1)大うつ病性障害のDSM-Ⅳでは除外診断であった死別反応(親愛なる人の死から2ヶ月以内の反応)が,「正常な死別反応と思われるものに大うつ病エピソードが重畳することがある」に変化
2)抑うつ障害は双極性障害と明確に区分。気分障害という用語は拝された
(8)不安障害と強迫関連障害
1)不安障害
・強迫性障害を除
・外傷後ストレス障害を除
・急性ストレス障害を除
・パニック障害と広場恐怖を独立
・広場恐怖,特定の恐怖症,社会不安障害の診断基準から18歳以上を除
2)強迫関連障害
・強迫性障害が強迫関連障害に
・身体醜形障害は,身体表現性障害から強迫関連障害へ移動
・溜め込み障害が新設
・抜毛症,自傷性皮膚障害(excoriation disorder:皮膚のかきむしり)を追加。
(9)物質関連および嗜癖障害
・カフェイン離脱,大麻離脱が追加
(10)人格障害
・DSM-Ⅳの診断枠
(11)PTSD
DSM-Ⅳでは瀕死体験と無気力という項目あり
→DSM-5では無気力を除(合理的に活動できる人もいるがPTSDであることも)
惨事ストレスの追加(9.11以降の研究による)
回避と麻痺→回避症状と認知の否定的気分の変化に
過覚醒症状に「向こう見ずな自己破壊的行動」の追加
(12)神経認知障害(Neurocognitive Disorder)
Neurocognitive Disorderはせん妄,認知症,健忘,および他の認知障害の概念を継承したもの
診断の確かさらしさの判断基準の一つに生物学的指標(遺伝子変異,CT,MRI,PET,SPECTなど)を用いる
病因別亜型分類として特定(病因:アルツハイマ-病,前頭側頭葉変性,レビー小体病,血管性,外傷性脳損傷,物質/投薬誘発性,プリオン病,ハンチントン病,パーキンソン病,HIVなど)
アルツハイマ-病,前頭側頭葉変性,レビー小体病,血管性疾患,パーキンソン病に関しては診断に「ほぼ確実(probable)」と「疑い(possible)」をつけることに
(13)Paraphilic(性的倒錯)の名称変更→Paraphilic Disorders
参考文献:臨床家のためのDSM-5虎の巻
編集:森 則夫 杉山登志郎 岩田泰秀