上司と部下の感じ方について
久しぶりに記事を書きます。
心理学というより,社会調査系の話になりますが,今日は上司と部下がどう感じているのかという話。
2015年4月のニュース
若手社員「3人に1人」は叱られたことがない それでも上司は叱るべきか : J-CAST会社ウォッチ
で,若手社員の意識調査をしています。このこと自体を取り上げてもいいのですが,今日はこの調査を行った 日本生産性本部 の行った,第3回 職場のコミュニケーションに関する意識調査について触れたいと思います。
この調査では,2013年6月~2014年3月に約1500名の社会人に質問を行っています。
(有効回答数:課長職417名 一般社員1045名)
第3回と銘打っているように,第1回,第2回と約800人程度に調査を行っています。この2回は一般社員は400人程度であり,第3回は一般社員からの調査が倍になっていることも調査を読む際には重要だと思います(調査の詳細は,上記コミュニケーションに関する意識調査リンクをクリックして下さい)。
調査協力者の年齢別階層で明らかになっている点もここで触れておきます。
まず,一般社員の調査ピーク年齢は30代であり,課長職は40代でした。ここを山の頂点に一般社員では20代から10代と40代から50代へなだらかに下降していきます。課長職も同様,40代をピークになだらかになっています。つまり,一般社員の多くは30代であり,課長職は40代と10歳程度の開きがあります。
少し細かく見て行きましょう(以下資料からの抜粋になります)。
1.部下(後輩)のやる気
部下,または後輩の仕事への「やる気を感じている」 課長:78.2%
部下の能力や仕事ぶりに満足している 課長:42.7%
(1)部上司が感じる部下のやる気と意欲 VS 能力の間にギャップ
(2)自分自身の今の能力に「満足していない」 一般社員:91.9%
2.人材育成
人材育成を「自分の役割である」 課長:93.3%
(1)自分自身の能力を今後「高めたいと感じている」 一般社員:88.3%
(2)部下、または後輩に対し個別の育成目標を「持っている」 課長:55.4%
上司から能力開発についての説明を「受けていない」 一般社員:64.2%
3.部下または後輩の育成を行っている 課長:81.8%
褒めることが「育成につながる」と思う 課長:98.1%
叱ることが「育成につながる」と思う課長 :87.8%
(1)部下または後輩を育成することに「自信がある」 課長:40.8%
(2)実際に褒めている 課長:78.4%
「上司は褒める方だ」と感じている 一般社員:48.6%
(3)叱ることは「育成につながる」と思っている 課長:87.8%
叱られると「やる気を失う」 一般社員:60.0%
4.課長・一般社員とも業務上のコミュニケーションは取れている
(1)「業務上のコミュニケーションは取れている」と感じている
課長:83%
一般社員:72.7%
(2)相談に来る,相談に行く
部下または後輩が「相談に来る」 課長:84.9%
「よく相談する」 一般社員:59.2%
相談する側と相談される側では,その認識に大きな差がある
(3)物事を伝える力
相手に対して的確に物事を伝えることに「自信がある」
課長:51.6%
一般社員の26.5%
非常に興味深いのは,相談に関してです。
相談に来ていると感じているのは上司で,実際は相談者は相談していないと考えています(もちろん一対一の上司部下関係の調査ではありませんが)。
そして,上司は,一般社員より倍,物事を伝えていると考えていて,一般社員の3/4は物事をうまく伝えられていないと感じているようです。
上司の方は,きっと部下からの相談を「なんてわかりにくい相談だ」と感じていて,一般社員に人は相談すると「お前の言っている意味がわからん」と言われているんじゃないでしょうか(会社内でそういう学習をした結果,自分はダメだと思っているように解釈しました。もちろんもともと説明下手だと認識して答えた人もいると思います)。
そこで,上司は,まず30秒は黙って聞いてみる。バラけそうな話なら,どこが中心かそっと聞いてみるといいかもしれません。
一般社員の方は,相談しても意味ないと思わず,まず,要点はいくつあるのか,どういった風にやってみたのかというシナリオを書いてから説明する,とりあえず一つだけ言ってみるといいのではないでしょうか。
企業でコミュニケーションの話をする時,たいてい中間管理職の方のご苦労が伺えます。少しでもその方々の苦労が減るといいなと思います。
アドラー心理学の勉強会
先日,都内某所でアドラー心理学の勉強会(研修会)に参加してきました。
昨年末に,基礎編を2日ほど受けていましたので,今年は応用編に参加。
基礎編と違い,どう話を聞き(聴き)どう考えどう相手に伝えるか(訊くか)が,リアルに感じられました。
アドラー心理学は一昨年頃(もう少し前?)から急に流行りだした心理学です。
多分,火付け役は「嫌われる勇気」だったのではないでしょうか(下にAmazonへの江リンクを貼ります)。
これ以降,マンガで分かるシリーズがではじめ,アドラー心理学の門をくぐるハードルを下げたように思います。
(アドラー心理学をアドラー心理学と呼ぶことに不思議な感じがしていたのですが,どうもアドラー心理学と銘打つ方がマーケティング的には良いのでしょう。学部時代,個人心理学として習った記憶がありますが)
応用編の勉強会の話を少しだけ書くと,どう聞き取り,その人物をどうアセスメントするかが主題だったと思います。
この人は世の中をどのように見ているのか,考えているのか。そこを中心に聞いていくという作業をしつつ,どのようなゴールを考えているか,考えていないのであれば,一緒にどう作っていくか。
認知行動療法では,このアセスメントにそって,問題点を絞り,その解決を一緒に探していくことになります。来談者中心療法では,この聞き取りだけである程度相談者の力が回復すると考えています。とにかく自由に語らせるフロイト的な精神療法とは少し違うように思います(精神分析がまったく問いかけをしないという意味ではありません)。
勉強をしていくにつれ,他の心理療法との接点,類似点に気が付き,アドラー心理学はかなり大きな源流だったのだと理解するに至った勉強会でした。
(学部時代は,ゲシュタルト心理学的なのかな,くらいでした)
アドラー心理学についてのまとめは別の機会にいたします。
参加の報告まで。
生存報告を兼ねて
だいぶ時間があいてしまいました。
新年の挨拶もまだ書いていませんでした。
本年もどうぞよろしくお願いします。
昨年末は自身の研究関係でドタバタしており,こちらには書き込めずにいました。
少しだけ時間ができたので,久しぶりではありますが,生存報告を兼ねて記録したいと思います。
再来年度(2016)は大きな国際学会が横浜で行われる予定です。
ですので,心理関係の方々は本年度から来年度の前半に研究を済ませたり,ある程度のところまで進めているのではないかなと思います。
そう考えると,新しい知見として紹介される研究は数年前になりますね。
心理学は近年,研究が多くなされ研究知見がどんどん更新されています。
しかし,多くはすでに先に先に進んでいるわけです。
でもそれはそれだけバリエーションが存在するとも言えます。
反対に,なかなか研究が進まない,もしくは変化が少ない研究分野は,仮説や現象が強固なものなのかもしれません(一概にそうとはいえないものもありますが)。
NHKで心理学の実験番組が放送されるようですが,それらは古典的でも強固な現象だと考えられます。どのように放送されるのか今から楽しみです。
本年はもう少し更新速度が上がるようガンバります。
学習の結果か遺伝か
できること/できないことの境目は?
自分は,臨床現場で仕事をしていると,目の前にいる「この人はなにができるのか」をよく考えます。
なにができるのかは,「なにをさせるか」ということではないのは理解していますが,どうしても,「なにをさせるか」を考えがちです。
例えば,お母さんに連れてこられたお子さんの立場で考えてみます。
本人の考えと親の考えを両方聞くことになります。
そうなるとたいてい,親がこうしたい,こうさせたいということがメインに話されます。
(例えば勉強をしないので,させたいなど)
確かに勉強はした方がいいし,その方が将来の道も多いと思います。
でも,そこで考えるべきは,なにができるか,なのかなと。
先日お話を聞かせてくれた方は,
「ここまではできたということを認めてほしい,もっともっとと周りはいう。そのもっともっとという言葉はよくわかる。そうしたいし,そうしなければならない。でも今ここまできた事実があって,それを小さいけど積み重ねて,そのもっともっとに近づけている。それをなかったことにしないでほしい」
と訴えていました。
(ほかのスタッフへの苦情を聞いていた時の内容をデフォルメしています)
できること,これからやれそうなこと,は両方その人の中にあるのだなと,ふと思いました。
では,現状できないのは,なぜなのか。
今までの学習のせいなのか,それとも遺伝的要因なのか。
もし遺伝的要因であるなら,それはあきらめることなのか。
それもその本人の意思によるのか。
いまはこの辺りで考えをまとめています。
まとまりがないないようになりましたが,またなにか思ったことが出たら書こうと思います。
もう過去のこと。DSM5の変更点はこうなるのでは?という話をしたときの資料
ご無沙汰しています。
今日見てみたら,141日も放置していました。
以前から書いておこうと思っていた,DSM5の変更点について,今回記載します。
なお,日本語訳の本が出版される前に作った資料なので,今ではもう古いし,間違いも多数あると思います。
自分の勉強のだめさ加減を記録するためにここに残します。
2013年5月 アメリカ精神医学会作成「精神疾患の診断と統計のためのマニュアル第5版 Diagnostic statistical manual of mental disorders 5th edition:DSM-5」が出版
DSM-Ⅳ(1994)→DSM-Ⅳ-TR(2000)→DSM-5(2013):13年ぶりの改定となる。
2.DSM-Ⅲとカテゴリー診断学
1980年出版 DSM-Ⅲ(DSM-Ⅰ:1952,DSM-Ⅱ:1968):カテゴリー診断学を採用
カテゴリー診断学:ある疾患において,典型的な症状をいくつかあげて,そのうちいくつ以上がそろっていれば診断ができるという診断方法
(病因は問われず症状のみで診断を行う)
3.変更点一覧
(1)多軸診断から多元的診断
DSM-Ⅲから多軸診断が採用:5つの異なった側面の評価を行って総合的に診断を実施
第Ⅰ軸 臨床疾患 臨床的関与の対象となることのある状態(ただし パーソナリティ障害および精神遅滞は除く)そのすべて。
第Ⅱ軸 パーソナリティ障害 精神遅滞
第Ⅲ軸 身体的疾患 精神疾患へ理解、または管理に関する可能性のある現存の一般身体疾患
第Ⅳ軸 心理社会的および環境的問題 第Ⅰ軸,第Ⅱ軸の診断,治療,予後に影響することのあるもの
不幸な出来事や環境的な困難,対人関係上のストレスなどの心理社会的ストレッサーの強さの程度
第Ⅴ軸 機能全体の全体評定 過去1年間の最高の適応状態を判断
→これらの多軸が完全に廃止したわけではないが,多元的診断へ
1)精神疾患の様々なレベルの変動,あるいは重複,変遷にも言及可能に
2)重症度という問題に,臨床的な尺度を用いて判定することを採用
3)カテゴリー診断は陽性か陰性か。多元的診断はスペクトラム(%表示で重症度)
まとめ:多軸診断が廃止。カテゴリー診断+ディメンション診断へ。連続性を強調。
(2)精神遅滞から知的(発達)障害へ
1)精神遅滞(Mental Retardation)から知的(発達)障害(intellectual developmental disorder)に変更
知的(発達)障害の下位
・知的(発達)障害
・全般性発達遅延 諸領域で遅れがあり,5歳以下などまだ幼いので,十分で正確な知的発達評価ができない場合
・特定不能の知的障害 諸領域で遅れがあり,5歳以上でも,十分で正確な知的発達評価ができない場合
▶従来の精神遅滞は知的障害と適応障害の両者が存在すること,知能の高低によって重度分類が行われて来た
⇨DSM-5では知的障害と適応障害の両者が存在する+重症度の評価の指標に生活適応能力の重視+単なる知能指数での分類はしない
・学力領域(Conceptual domain),社会性領域(Social domain),生活自立能力(Practical domain)にかんして,具体的な状況から重症度の判定
2)コミュニケーション障害
下位の言語障害(Language disorder):従来のコミュニケーション障害
表出型,表出受容型の区別がない(理解はよいが表出がダメ,理解も悪く表出もダメ)
→度精神発達障害の幼児期の症状の可能性
DSM-5の言語:話し言葉,書き言葉,サイン言語なども含まれる(聴覚障害も考慮可)
3)運動障害
従来の運動能力障害+チック障害
4)発達障害とAD/HD(注意欠如/多動性障害)
正式に発達障害に区分
症状発言年齢が,7歳以前から12歳以前に引き上げ
17歳以上では5項目を満たせば良いと診断基準が緩和
(3)自閉症スペクトラムについて
広汎性発達障害(Prevasive Developmental Disorder : PDD)から自閉症スペクトラム(Autism Spectrum Disorder : ASD)へ
(資料に詳しい)
(4)哺育と摂食の障害
過食症が正式に追加
幼児期または小児期早期の哺育,摂食障害と成人の摂食障害がひとつに。
数値的指標はないがBMI18.5がひとつの基準に?
(5)重度(破壊的)気分調整不全障害(Disruptive Mood Dysregulation Disorder)
6歳から17歳までのうつ病状態
1年以上続く子供の苛々や癇癪(週に3回以上の癇癪)。
周期的な癇癪は双極性障害と考えられてきたが,多く診断されすぎる
→重症気分障害(SMD)の概念が出現
まとめ:双極性障害の過剰診断を防ぐ目的に
主要な症状は5つ。
妄想,幻覚,解体した思考・会話,ひどくまとまりのない言動または緊張病性の行動,陰性症状
いずれもはっきりとしない→失調型(人格)障害
妄想だけ有する→妄想性障害
1つ以上が認められ1ヶ月以内に完全に回復→短期精神病性障害
統合失調症の診断基準は満たすが,6ヶ月以内に基準を下回る→統合失調症様障害
6ヶ月を越える→統合失調症
1)大うつ病性障害のDSM-Ⅳでは除外診断であった死別反応(親愛なる人の死から2ヶ月以内の反応)が,「正常な死別反応と思われるものに大うつ病エピソードが重畳することがある」に変化
2)抑うつ障害は双極性障害と明確に区分。気分障害という用語は拝された
(8)不安障害と強迫関連障害
1)不安障害
・強迫性障害を除
・外傷後ストレス障害を除
・急性ストレス障害を除
・パニック障害と広場恐怖を独立
・広場恐怖,特定の恐怖症,社会不安障害の診断基準から18歳以上を除
2)強迫関連障害
・強迫性障害が強迫関連障害に
・身体醜形障害は,身体表現性障害から強迫関連障害へ移動
・溜め込み障害が新設
・抜毛症,自傷性皮膚障害(excoriation disorder:皮膚のかきむしり)を追加。
(9)物質関連および嗜癖障害
・カフェイン離脱,大麻離脱が追加
(10)人格障害
・DSM-Ⅳの診断枠
(11)PTSD
DSM-Ⅳでは瀕死体験と無気力という項目あり
→DSM-5では無気力を除(合理的に活動できる人もいるがPTSDであることも)
惨事ストレスの追加(9.11以降の研究による)
回避と麻痺→回避症状と認知の否定的気分の変化に
過覚醒症状に「向こう見ずな自己破壊的行動」の追加
(12)神経認知障害(Neurocognitive Disorder)
Neurocognitive Disorderはせん妄,認知症,健忘,および他の認知障害の概念を継承したもの
診断の確かさらしさの判断基準の一つに生物学的指標(遺伝子変異,CT,MRI,PET,SPECTなど)を用いる
病因別亜型分類として特定(病因:アルツハイマ-病,前頭側頭葉変性,レビー小体病,血管性,外傷性脳損傷,物質/投薬誘発性,プリオン病,ハンチントン病,パーキンソン病,HIVなど)
アルツハイマ-病,前頭側頭葉変性,レビー小体病,血管性疾患,パーキンソン病に関しては診断に「ほぼ確実(probable)」と「疑い(possible)」をつけることに
(13)Paraphilic(性的倒錯)の名称変更→Paraphilic Disorders
参考文献:臨床家のためのDSM-5虎の巻
編集:森 則夫 杉山登志郎 岩田泰秀
予想どおりに不合理(ダン・アリエリー)早川書房 読書中
行動経済学という学問があります。
従来の経済学とは,少し違って,不合理な人間(普段の人々)がどう経済行動を行っており,その結果経済活動(大きな動き)を生むのかを考える学問と言えます。
言い方を変えると,従来の経済学では合理的な人間を想定し,その合理的な行動の結果の経済活動(大きな動き)を考えていたといえます。
どちらがより現実に近いかという視点から考えると行動経済学といえます。
ただ,どちらが優れているかという問いには,明確な答えがありません。というか,そういう問いが立たない,もしくは場面ごとにその問の答えが変わると言えます。
実際の人間の行動から,人の経済活動を捉えたいんだという場合は,行動経済学でしょうし,いやいや,大きな枠組として,経済活動を説明したい,その場合は,数理的にモデル化して,どうこうしたいという場合は,従来型の経済学を選択することに成ると思います。
もちろん,前者が後者の目的を達成しようとすることもできるし,その逆もしかりです。
と前置きが長くなりましたが,タイトルの
予想どおりに不合理: 行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
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は,その行動経済学の読み物になります。
以前,この本のハードカバーもソフトカバーも増補版も購入したのですが,やっぱり文庫本ば持ちやすいと思い,購入しました。
行動経済学は,経済学の考え方に心理学のエッセンスが入った学問でもあります。
ダニエル・カーネマンは行動経済学の理論を発表しノーベール賞を受賞しましたが,その実験手法は心理学ですし,ダニエル・カーネマンは心理学者です。
ノーベル賞に心理学賞がないので経済学で受賞したんだと思います。
で,タイトルのダン・アリエリーは,ノーベル賞ではなくイグノーベル賞を受賞しています。イグノーベル賞に入るくらいインパクトの大きい発表があったということです(いままでの研究を総合してでしょうが)。
その研究内容が手のひらで読める,ということで,なんだか宣伝ぽいですが,読書中の書籍を紹介しました。
なお
が近日発売予定です。